マダム・ジジからの手紙
フランス・ロワール地方の古城に暮らす伯爵夫人、マダム・ジジからプティ・セナクルへ届いたメッセージをご紹介しています。
春、新しいプロジェクトのはじまり
新しいプロジェクトをお伝えすることにとても興奮しています! 私は、メアリー・カサット(Mary Cassatt アメリカ人画家) が1891、 92、93年の夏に滞在した屋敷に絵を描くために招かれています。そしてメアリー・カサットの庭園で絵を描く予定です。その場所に赴き(アメリカ人画家の後を別のアメリカ人画家がたどることになります)、そして風景画のシリーズ作品を描くことを考えています。
メアリー・カサットの絵画のテーマは「母性」であり、また彼女のエッチング作 品からははっきりと日本の影響が見られます。私は彼女と同じテーマではなく、 彼女にインスピレーションを与えた場所、そして彼女と同じ環境で絵を描こうと思っています。私は既にその屋敷のガレージ部分にアトリエを構えており、それは信じられないほど古風でロマンティックです。ちなみに、私が完成した絵を掛 けておく予定の大広間は75年もの間、使われていなく、リフォームもされていません。どんなところか想像できますか?... クモの巣だらけです。
また当然ですが、屋外で大きなサイズの戸外主義的な絵を描くつもりです。既にキャンバスを張るなど準備を始め、4月から創作を開始します。庭園には洋ナシの木で作られた垣根がいくつかあり、素晴らしい絵の題材となるでしょう。この 庭園は屋敷と同様、雑草が生い茂っており、あまり手入れされていない状態ですが、いまだに華やかだった日々の面影をいくつも残しています。
この大きな屋敷は私の親友が所有しており、これまで一度も一般に公開されていません。ここで私はこれからの5ヶ月間、計15枚の絵画を描きます。そして9月末に、パリから1時間ほど北にあるヴァル=ドワーズ県(Val d’Oise)で展覧会を開催する予定です。
日本はなんてひどい惨状なのでしょう!その映像は非常に恐ろしく、世界の終末を思わせました。また今、(北アフリカで) 戦争も始まりました。私たちは恐ろしい時代に生きています。
それにもかかわらず、私は花々を描き、人生の良い面を生き生きと表現しようと心がけています。それは今後、多くの芸術家が人生の暗い面を表現すると思われるからです。先月、私の友人は以下のような所見を発表しました。
「今日の関連性において、過剰や誇張、辛辣さ、衝撃が互いに競い合い、メディ
アや大衆の関心を引こうと張り合っているような芸術環境で、そこにさらされている感覚を絵画は和らげてくれます。絵画はその時代を明確に映し出すものである一方、そこにはより内省的で穏やかであると同時に、世俗的で自然な聡明さを特徴として持つような芸術が存在する余地があります。このような芸術は新聞の一面を飾るようなことはありませんが、あなたをよい気分にさせてくれます。これはとても今日的だと思いませんか?」
トーマス・バイエル (Thomas
Bayer), 美術史教授, チューレーン大学
gigi
マダム・ジジ プロフィール
狩猟で有名な、ロワール地方、ソーミュールにほど近い「レ・ゾーベール」の森を所有する貴族、ド・ジュヌブライ伯爵夫人として消えつつある18世紀貴族の暮らしを今に残す生活を続けると同時に、アーティスト名、ハーパーでプロの画家としての制作も続けている。アメリカ、ヨーロッパ各地から個展を開催する傍ら、「SUNDAY」等のアートブックを出版。1990年、アメリカン・アカデミー・オブ・ローマ招聘アーティスト。
また、アメリカ独立戦争に関わった家族の末裔が中心になる活動「DAR」やロワール地方で毎夏開催されるイベント、オペラ・ボウジェ、等、音楽家や芸術家のパトロナージュを募る各種団体でメセナ活動を行っている。
『マダム・ジジに教わる〜フレンチ・マナーなおもてなし』
「Bon Chic vol.2 (別冊PLUS 1 LIVING・主婦の友社) 2010年3月」
『フランス的美生活』
「グレース(世界文化社)2007年10月号」
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