家具と装飾美術の歴史を学び、仕事に生かす女性たち
津屋式子さん(読売新聞東京本社 文化事業部勤務)
大学卒業後、読売新聞東京本社に入社し、美術や音楽に関する文化事業を手がけていた津屋式子さんが、会社の派遣留学制度を用いて1年間の休職し、専門分野をより深く学ぶ為に英国留学に踏み切ったのは、2009年のことでした。
学生時代からチェンバロ奏者として活躍し、舞台芸術にも興味があったという彼女が学びの場として選んだのは、世界的に有名なオークションハウス「サザビーズ」。彼女はそこで、『STYLES IN ARTS』クラスと『ARTS& BUSINESS』クラスを受講しました。前者は、絵画、彫刻、装飾美術や建築など、芸術様式の変遷を系統立てて理解するのに役立ちました。また、後者では、美術品の流通システムや法律など、オークションの成り立ちを知れただけでなく、売買される工芸品にじかに触れたことで、その素晴らしさを肌で感じ取る豊かな経験をしたそうです。
「様々な文化に触れる30代はとても刺激溢れる日々でしたが、40歳を目前に将来の自分のあるべき姿をシミュレーションしてみました。そうして思い浮かんだのが、自らが能動的に展覧会を企画し、日本ではまだ知られていない海外のアートを日本の美術愛好家に紹介していきたいと思ったのです。 サザビーズの授業は、18世紀後半の建物をそのまま校舎として用いている教室とナショナル・ギャラリーやV&A(ヴィクトリア&アルバート)ミュージアム、また、バッキンガム宮殿という芸術品の宝庫を会場に進められました。」
「私が日本と最も違うと感じたのは、装飾美術品の歴史を語るうえで『家具』がとても重要視されていることです。ヨーロッパの家具の歴史はそのまま美術様式の変遷に繋がるのです。また、お城や邸宅を訪れることで、芸術品はそれだけがあって素晴らしいのではなく、それが引き立つように設えられた『ギャラリー』と呼ばれる陳列室に収められることで一層輝きを増すことを実感しました。」
留学時代は余暇に舞台を観るのが楽しみだったという津屋さんは、劇場に脚を運ぶたびに、演目の時代設定と舞台装飾装飾に一貫性があることも感心したそうです。
「英国の舞台では、美術担当がインテリア史を把握していることが必須です。私は、美術様式の変遷を学んだお陰で舞台上の椅子ひとつに目がいくようになり、大好きな舞台もより一層楽しめるようになりました。」
帰国後もその知識熱は覚めやらず、津屋さんは一昨年、仕事の合間をぬってプティ・セナクルの総合コースを受講しました。
「サザビーズで学んだことを、今度は日本語でおさらいできたことは、とても勉強になりました。また、プティ・セナクルでは、毎回、講師の方々が所有する美術館クラスのアンティークを見せてくれるのですが、日本にもアンティークの逸品が集まっていることに驚かされました。現在、弊社では、その作品が写真作品としてはオークション史上最高額を記録し、歌手、マドンナが最も愛する写真家アンドレアス・グルスキーの展覧会を国立新美術館で主催しています。現実の人間には見えない壮大、かつ緻密な世界が写真という表現方法で味わえる、またとない展覧会です。今後は、是非、サザビーズやプティ・セナクルで学んだことを糧に、展覧会場という『舞台』を生かした、迫力ある装飾美術展をプロデュースしていきたいとおもっています。」
と、その抱負を語ってくれました。