マダム・ジジからの手紙
フランス・ロワール地方の古城に暮らす伯爵夫人、マダム・ジジからプティ・セナクルへ届いたメッセージをご紹介しています。今回からは、太陽きらめくカリフォルニアに生まれた夢見る少女が、画家を目指しヨーロッパへ渡り、運命の出会いを経て、奥深い森にたたずむ古城に暮す伯爵夫人となる・・、そんなマダム・ジジの華麗でドラマチックな人生をご紹介しましょう。
伯爵夫人になったカリフォルニアガール 5
しかし私はその後、フルートを習いたくなりました。他の二人の姉妹がお金のかかるピアノを既に習っていたため、父が私に与えた選択肢は歌とフルートだったからです。現在でもフルートの演奏を楽しんでおり、時折、ジャズ ビブラホンを演奏する夫のパトリックと一緒に即興演奏をしています。私がフルートを習って以来、家でのコンサートは妹ドナによるピアノとフルートの演奏になったのです。
高校に入学した1973年の頃になると、公民権運動はアメリカ中に浸透していました。「バス」(※人種差別を軽減するために遠くの学校へ生徒をバスで連れて行く施策)により、私たち兄弟は白人の生徒が少数派となるスラム地区の学校へ連れて行かれました。「バス」とはいえ実際にバスを使ったことはなく、既に免許証や車を持っている年上の学生たちの車に相乗りして通学していました。それは恐ろしい時代で、黒人の若い娘たちは白人の女の子たちをよくいじめていました。いじめは通常、バスルームで行われ、そのために黒人の娘たちはハチの巣箱のようなヘアースタイルの中にかみそりの刃を忍ばせていたのです。(高校周辺の)ワット地区にはいくつか暴動もあり、暴徒は私たちの学校のキャンパスにも押し寄せてきました。私は腰まで伸びたブロンドの髪を持っていたため、他の女の子より目を付けられやすかったのですが、交差点で小さな黒人の女の子に髪の毛をつかまれて下に強く引っ張られる、といった些細な出来事に遭遇しただけで、何とか無事でした。
その頃はヒッピーの時代でもあります。白人の少年少女たちは皆、髪を伸ばし、黒人の子たちは「アフロ」ヘアにしていました。さらに偉大なロックバンドの時代です。ザ・フーやレッド・ツェッペリン、クリーム、クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング、そしてローリング・ストーンズ。私の友人たちはみんな大きなコンサートに行きましたが、私は行けませんでした。過保護な両親が「ドラッグが蔓延しているような」場所に遊びに行くことを許してくれなかったからです。ただし私がドラッグにのめり込まなかった理由はおそらく、私のすべての関心が当時のボーイフレンドに向いていたからだと思います。私の家族は全員、特に父は、私のボーイフレンドのことを好きではありませんでした。
母がよく言っていたように、私は「空想にふけりながら一人でいることが好き」であり、いつも集団から外れていました。それがなぜかはわかりませんが、周りの人とは違う、よそ者だと感じていたのです。家族とは別に休暇で出かけたときも、家族のことをものすごく愛しているにもかかわらず、彼らがいなくて寂しいとはまったく思いませんでした。
嫉妬深くて独占欲の強い高校のボーイフレンドとついに別れたとき、アーバインにあるカルフォニア大学に通うため、オレンジカントリー地区に引っ越しました。またその同じ年に、新たな自由を表現するため、初めて行われたミス・アーバイン コンテストに参加し、優勝します。そのコンテストの参加者は5人しかおらず、最終選考会の観客は40名程度でしたが、その体験は面白く、私が必要としていた自信を付けさせてくれました。コンテストの特技を披露する部分では、妹のドナの伴奏付きでフルートを演奏し、また「誰からも好かれる部門」でも賞をもらいました。このことでは弟のジョンからずっとからかわれていました。
カルフォニア大学では美術を専攻し、かつ副専攻科目としてフランス文学を勉強し、学位を取って卒業しました。(補足:あまり熱心に勉強していなかったせいか、)父にはよく、大学でバスケット編みを専攻していると言われたものです。大学での退屈な数年間を過ごした後、カルフォニアにおけるマリファナの中心地となっていたメンドシーノに移り、ゴールドラッシュの時代にかつてのウェルズ・ファーゴ社(アメリカの金融機関)が郵便事業の中継所として使っていた駅舎で暮らしました。ゴールドラッシュの当時、郵便物はアメリカ中、馬車で運ばれており、駅は一日中馬車に乗って疲れた 後に泊まる宿でもあったのです。その私の家は路地の先にあり、古い木造3階建てでした。暖房設備がなく、板木の隙間から光がもれるような部屋の壁で、料理は薪ストーブでするしかないような家でしたが、私はそこでジャムやブラウニーを作り、詩を書き、たくさんの絵を描きました。またヴォルクスワーゲンのコンバーチブルに乗って大西部グレートウエスト地区のあちこちをよく旅したものです。それはヒッピーのような日々でした。
つづく
gigi
マダム・ジジ プロフィール

狩猟で有名な、ロワール地方、ソーミュールにほど近い「レ・ゾーベール」の森を所有する貴族、ド・ジュヌブライ伯爵夫人として消えつつある18世紀貴族の暮らしを今に残す生活を続けると同時に、アーティスト名、ハーパーでプロの画家としての制作も続けている。アメリカ、ヨーロッパ各地から個展を開催する傍ら、「SUNDAY」等のアートブックを出版。1990年、アメリカン・アカデミー・オブ・ローマ招聘アーティスト。
また、アメリカ独立戦争に関わった家族の末裔が中心になる活動「DAR」やロワール地方で毎夏開催されるイベント、オペラ・ボウジェ、等、音楽家や芸術家のパトロナージュを募る各種団体でメセナ活動を行っている。
『マダム・ジジに教わる〜フレンチ・マナーなおもてなし』
「Bon Chic vol.2 (別冊PLUS 1 LIVING・主婦の友社) 2010年3月」
『フランス的美生活』
「グレース(世界文化社)2007年10月号」
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